多嚢胞性卵巣の原因と治療

多嚢胞性卵巣症候群の原因

多嚢胞性卵巣(PCOS)の正確なメカニズムはいまだ解明されていませんから、原因も複数諸説ありますし、いくつかの原因が重なり合って発症しているケースも少なくないようです。

疑問に思う医者

多嚢胞性卵巣(PCOS)の診断基準は国際基準が定められていますし、日本産婦人科学会が明確な基準を設けていますから、PCOSかどうか診断を確定することは可能です。

病名がはっきり分かっているのに原因を特定するのが難しい――多嚢胞性卵巣はそんな厄介な婦人病ですが、なぜ発病に至るのか部分的な発病要素はある程度明確になっています。

多嚢胞性卵巣(PCOS)の原因としてメジャーなのは、アドレナーキ説や内分泌の不調和、遺伝的要因説です。またインスリン抵抗性との関係性を疑う専門家も非常に多いので、こちらの説は後ほど詳しくご説明させて頂きたいと思います。

アドレナーキ説
成長期の6~8歳以降、アドレナーキ(adrenarche)と呼ばれる身体が成人化するきっかけになるホルモンの分泌が始まります。

身体の形成に欠かせない重要なホルモンですが、男性化作用も持つアドレナーキの分泌量が多過ぎると多嚢胞性卵巣(PCOS)の原因になり、多毛やニキビ、低音声、陰核肥大など男性的な特徴が目立つようになります。

内分泌の不調和
多嚢胞性卵巣(PCOS)の原因がホルモン分泌過程の不調和、と言うのも有力視されている説です。

実際多嚢胞性卵巣(PCOS)になるとFSH(卵巣刺激ホルモン)が正常範囲なのに血中LH(黄体形成ホルモン)の数値が高くなります。

スムーズに排卵する為には卵巣はもちろん、視床下部や下垂体からも正常にホルモンが分泌される必要があります。けれど多嚢胞性卵巣の場合はアンドロゲンが過剰につくられ、エストロゲンの生産が芳しくない状態になってしまいます。

遺伝的要因説
生まれつきX染色体の構造や数に問題がある為、多嚢胞性卵巣(PCOS)になると言う遺伝的要因説を唱えるドクターもいます。

確かに多毛や肥満などの多嚢胞性卵巣(PCOS)症状を抱える患者さんの身内を調べてみると、同様の症状を発症しているケースは報告されています。

遺伝と言われると患者さん本人はがっかりしてしまうかも知れませんが、あくまで複数諸説ある中の一説に過ぎません。

PCOS自体複数原因が重なり合って発症しやすくなる病気ですから、たとえ遺伝的要因の可能性がある方でも、他の原因を対処すれば辛い症状を改善に導くことは十分に可能です。

多嚢胞性卵巣(PCOS)の治療方法

残念ながら現時点では多嚢胞性卵巣(PCOS)の治療法は確立されていません。もちろんいくつかの治療法やセルフケア方法の有効性は認められていますが、「これをするのは必ず誰にでも効く」と言う対処法は分かっていません。

同じ月経異常でも妊娠を希望しているかどうかで治療の選択肢も変わってきますし、患者さん一人一人の体質や要望、症状の出方やレベルに応じて治療の展開は異なります。

当然担当ドクターの方針も影響します。不妊治療の一環として医療機関で多嚢胞性卵巣(PCOS)を治す場合、一般的にはクロミフェン療法やゴナドトロピン療法がメジャーな治療方法になります。

唯一保険適応されるタイミング法の他、クロミフェン療法、ゴナドトロピン療法同様自由診療になる人工授精、体外受精、顕微授精、受精卵凍結保存法など・・・いずれにしても精神的、肉体的苦痛を伴い、経済的負担やリスク、副作用も大きいアプローチ方法が大半です。

クロミフェン療法
高確率で排卵障害を引き起こす多嚢胞性卵巣(PCOS)ですが、妊娠を望んでいる場合はとにかく卵巣から卵が排卵されるよう本来の機能を回復させ、コンディションを整えなければなりません。

クロミフェン療法は排卵誘発剤と呼ばれる内服剤によって、人為的に排卵を促す治療法です。クロミフェンと言うのは経口タイプの排卵誘発剤の総称で、最もメジャーなクロミッドの他セロフェン、フェミロン、オリフェンなどメーカーによって具体的な商品名は異なります。

クロミフェン療法の効果が現れやすいのは軽度の排卵障害で、排卵誘発度は70~80%、10~30%の妊娠率が期待できます。

ただし5%前後から1%未満の割合で、「顔面紅湖感」、「卵巣腫大」、「下腹部の痛み」、「嘔吐」、「吐き気」、「頻尿」、「尿量増加」、「頭痛」、「蕁麻疹」、「視覚障害」、「疲労感」、「神経興奮」、「OHSS(卵巣過剰敏感症候群)」などの副作用が起こる可能性があり、妊娠に成功した場合も4~5%の確率で双子などの多胎妊娠になる恐れがあります。

更に長期間クロミフェン療法を継続することで子宮内膜が薄くなったり頸管粘液が減少するなどの抗エストロゲン作用の副作用が起きやすくなりますから、ゴナドトロピン療法やシクロフェニル療法、人工授精など他のアプローチ方法を検討しなければなりません。

ゴナドトロピン療法
クロミフェン療法で効果が得られず、一定周期以上連用している場合、抗エストロゲン作用の副作用が起きやすくなりますから、重度の排卵障害に適しているゴナドトロピン療法(hMG-hCG療法)に切り替えられます。

ゴナドトロピン療法の排卵確率は70%前後、妊娠率は30%前後とのデータが報告されていますが、医療機関で毎日、もしくは1日置きに通常よりも痛い筋肉注射を打つ必要があります。

比較的臀部は痛みが軽減されますが、女性にとってお尻をむき出しにするのはとても恥ずかしいものですよね・・・。毎日注射を打たれる為に病院に通うのは肉体的にも精神的にも、そして経済的にも大変なことです。

また内服薬によって視床下部を刺激し、排卵を促すクロミフェン療法とは異なり、卵巣をダイレクトに刺激して排卵を促すゴナドトロピン療法の場合、卵巣過剰刺激症(OHSS)の副作用が強い不安要素になりますし、妊娠に成功したとしても流産の可能性が上昇してしまいます。

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